継子岳
(2006年8月14日)

木曽御嶽には四つの山頂があり、5つの池がある
(6つの山頂、6つの池と数えることもあるらしいが)

しかし今までは、剣ヶ峰に登ったことしかなく、他の三つのピークを踏むことは懸案だった。

そして池だか川だかよく分からない四の池とはどのようになっているのか。
なにより花の宝庫とされる御嶽北部は、地獄谷のある南部と対照的に、天国のお花畑のようなところなのではないかと、いつしか夢想するようになっていた。

調べてみると、チャオ御岳のロープウェーは13・14・15・16日の4日間だけは運行しているらしい。
お盆休みを利用して、今年こそ、未知のピーク・継子岳と摩利支天山のピークを踏み、謎に満ちた御嶽の北部を確かめてみることにした。

四ノ池から見た継子岳&U峰

■■ルート■■
チャオ⇒継子岳⇒U峰⇒四ノ池⇒飛騨頂上⇒摩利支天山⇒飛騨頂上⇒高天原⇒継子岳⇒チャオ
歩行時間 約6時間35分


08:33 チャオ御岳スノーリゾートのロープウェーに搭乗
スキー場からみる継子岳はかなり急で迫力がある
前日の夜、塩尻ICを降りて木曽福島に向かい、幹線道路を途中で右折すると、後は道なりに進むだけでチャオ御岳スノーリゾートに着く。
道中は山深く、何度かフクロウやネズミのようなものが車の前を横切った。

駐車場は非常に広く、先行者の車が5台ほど止まっていたが、充分に間を置いて駐車できた。
そのまま車中泊。

残念ながら、トイレはどうも見当たらず、翌朝、レストハウスがオープンして初めて館内のトイレを使えた。

ロープウェーはAM8:30運行開始だが、客は少ない。
この日の朝は10人前後くらいか。
08:45 継子岳までの急な登り
ロープウェーを降り、しばらく真新しい登山道をトラバース気味に進む。
この道は平成12年夏に開通したらしく、木や岩が多くて歩きづらい。

やがて、日和田登山道の標識があり、いにしえからの道・日和田道に合流する。



日和田道は多少ジグザグするものの、ほぼ斜面に対して垂直に登っていく。
岩だらけの大変な急坂で、手足を使って登るようだった。

このような道は登りはまだいいが、下りが非常にきつい。

事実、この日も下山では日和田道の下りに苦しめられることになるのだった…
日和田口登山道との合流点

涸れ沢沿いに道がある
かつては沢そのものを登ったのだろう
11:02 継子岳 -ままこだけ-

この「継子岳」の標識は最近できたそうだ
ちょっとオーバーペースだったかも知れないと反省しつつ、2時間15分ほどの登りで、継子岳の山頂についた。

はじめて見る山頂は霧に包まれ、なんとなくなだらかなピークで、どこが最高点なのかも分かりづらい。
他の登山者に教えてもらって初めて三角点に気づいたくらいだった。

過去の記録ではここにドーム状の建築物の骨組みが残っているとのことだったが、痕跡も分からないくらいきれいに消えうせている。

山頂標識も新しいものがある。
どうやら最近、このあたりに整備の手が入ったのだろう。


山頂は広く、とりとめのない感じがする
11:36 U峰

あたりは一面ハイマツと小石の斜面
石碑・祠は継子岳山頂のものより
年季が入っているようだ
継子岳より標高が低いためか、U峰などと便宜的な呼ばれ方のピークだが、存在感は継子岳より遥かにある。

黒沢口登山道から「あれが継子岳か」と思って眺めていたピークは、U峰だったようだ。

継子岳とU峰の鞍部は、コマクサを踏まないようにロープが張られていて、道は明瞭だ。

岩がちの山頂は、いくつもの祠や石碑があった。
その数は継子岳山頂よりずっと多い。
12:00 四の池
U峰⇔四ノ池の道は不明瞭との看板がある
しかし最近整備されたらしく、目印のペンキがたくさんあるので、霧の中でも迷うほどではない
U峰から四の池への下りは、道が不明瞭なため「通行禁止」と書かれた札がある、との情報だったが、実際に札には、道が不明瞭なため「要注意」と書いてあるだけだった。

実際、下り始めると、頻繁にマーキングがあって道に迷う心配はない。
ただし、マーキングの位置は、四の池から登るより、U峰から下る方が確認しやすく、道をたどりやすいと思った。

一面瓦礫のような斜面を下ると、徐々に霧の中から四の池が見えてきた。



なんという不思議な風景だろうか!
一瞬、霧が晴れると、思わず顔がほころんだ。
四の池に降りた頃、徐々に霧が晴れ始めた
ありがとう御嶽!
四の池の底に池はなく、湿原と河原の中を小川が流れている
なるほど、時期によってはお花畑にもなるだろう
四の池の小川は、通る者が誰しも水に手をひたしたくなるような、穏やかな美しさがある
標高2690mの地を高山植物が覆い、火口湖の稜線が周りを囲んでいる

湿原は良く見ると色々な花が咲いている



花の名前が分かればもっと楽しいのかも

山が好きな人間なら、ここを天国と形容しても理解してくれよう。
辺りを散策しているうちに12時をまわったので、天国のほとりで軽い食事をとった。
四の池の端は、滝になって流れ落ちていた
日本最高所の滝ではなく、2番目だそうだ
ちなみに一番目は、同じ御嶽山の中にあります
手前のピークがU峰、奥のなだらかなピークが継子岳
四の池が手前にあるせいか、優しい顔つきの山に見える
12:50 三の池

神秘的な三ノ池


のどかな四ノ池
三の池は何度も来たことがあるが、こちらから眺めるのは初めてだった。
三の池と四の池にあるこの稜線、双方の池が眺められるので面白い。



どちらの池も美しいのだが、竜神様がいるという三の池は、神秘的な陰性の美。
お花畑とせせらぎの四の池は、陽性の美という気がした。
摩利支天山方面から眺める三ノ池
また違った印象になる


三ノ池から飛騨頂上へ行ける道もある
13:07 飛騨頂上 -ひだちょうじょう-
飛騨頂上の霊神碑と五ノ池小屋。
碑には「大龍霊神」とあるが、知識がなくどのような人物なのか分からない
四ノ池の外縁を周るようにして、初めて飛騨頂上に来た。
三ノ池からも見える巨大な霊神碑がランドマークになっている。


五ノ池小屋も見える。
しかし小屋の前のベンチに座っている人がジーッとこちらを見つめてくるような感じでなんとなく居心地が悪い。
セルフタイマーで自分の写真を撮るのが、なんとなく気恥ずかしかった。

それにしても、写真で見たことはあったが、これが五ノ池かとつくづく眺める。
五ノ池は本当に小さく、周縁はロープが張られて近づけない。
なんでもコマクサを保護しているのだそうだ。

あたりも人の姿が増え、やっとお盆の百名山らしい雰囲気になってきた。
摩利支天山から見た飛騨頂上。巨大な霊神碑が目につく
五ノ池小屋のたたずまいも印象的だ
14:00 摩利支天山 -まりしてんやま-
摩利支天山の入口というような場所には、大きな摩利支天尊の鳥居がある。
飛騨側からだと、ここに来るまでがけっこう急登だったりする
飛騨頂上から見る摩利支天山は、岩肌がむき出しで、意外に険しい感じがする。
ペンキのマークを頼りに岩場の斜面を登りきると、鳥居のところに出た。

ここは賽の河原方面から来ると、さしたる急登もなく来れる場所なので、苦労して登ったのに拍子抜けである。

しかしここから摩利支天山の山頂までは片道20分。
意外と距離がある。
道も岩が多く、アップダウンを繰り返すので膝にくる。


途中、広大な賽の河原が眺められ、しばしば見とれた。
賽の河原は実に広い。
人が歩く道は、そのほんの片隅にあるに過ぎないようだ。



摩利支天山の山頂は地味だが、険しい岩場で眺めは素晴らしい。
人気もなく、居心地の良い場所だった。

この山頂を通り過ぎ、飛騨側に降りていく道がかつてはあったが今はないという。
山の歴史を思い、往時を空想する。
山頂はちょっと分かりづらい。
幸いGPSを持っていたため、山頂辺りで三角点を探したところ、頭上の岩陰に発見した。
にせピークが前後にもあるため、気をつけないと行過ぎてしまいそうだ。

継母岳が、ここから見るとまた違った顔を見せる
昭和59年長野西部地震以降、登山道の消えてしまった山だ
機会があれば登ってしまおうかと思っていたが、意外と険しい
単独行でアプローチするのはかなり厳しそうだ
摩利支天の鳥居と五ノ池小屋
左奥に見えるのはU峰
15:00 五ノ池小屋

小坂口登山道の終点にある五ノ池小屋


水の涸れかけた五ノ池
風前の灯、というか…
午後になって好天に恵まれたため、担ぎ上げてきた1.5リットルの飲料水が尽きてきた。
三の池に下りて水を汲んでこようかとも思ったが、この後、四の池の西端へ行く予定だったので、少し遠回りになるのが億劫な気がした。

思案しながら、物見がてらに五ノ池小屋へ立ち寄ってみたところ、軒先でビール・ジュース・ミネラルウォーターが売っているではないか。

500mlのミネラルウォーターが1本500円だった。
2本購入し、1本をその場で飲み干すと、ようやく安心できた。




五ノ池小屋は、平成11年に建て直されたとのことで、小さいが真新しくきれいだ。
御嶽山では唯一のアルペンスタイルの山小屋だそうだが、アルペンスタイルの山小屋とはなんなのか、私には分からない。

まあ確かに、他の山小屋と比べて洋風な感じがするが。

小屋の前にはベンチが置かれ、登山者が自由に休憩している。
目の前には摩利支天山の岩肌が間近に見える。

五ノ池も近くで見れたが、水は今にも無くなりそうだった。
池というより水溜りに近い状態だが、通年、水があるのだろう。
五ノ池小屋の前。ベンチでビールを飲んでいる人もいる

ベンチに座ると、眼前に摩利支天山の威容が間近だ
15:35 高天原 -たかまがはら-

どこか荒涼とした高天原


雲のかたまりが眼下を流れてゆく
四ノ池の北西に「高天原」という場所があるということは、実はすっかり忘れていた。

それでも、ここを通りがかった時の辺りの景色は、強く印象に残った。

なんというところだろう!

辺りは岩の瓦礫が積み重なって丘となり、なだらかな斜面はハイマツの緑に覆われて広がっている。
時刻が遅かったせいか、周りに人影はない。

とてつもなく非日常の世界の中にいるような気がした。


なお、御嶽北部は道の整備が遅れているらしく、ペンキの目印を辿って歩かないと、うっかりコマクサを踏んでしまいかねない。
小さな花だが、一花咲くのに10年かかるといわれるくらい成長が遅いそうだ。
むやみに踏み潰してしまうのは惜しい。
高天原ゆえか、天照大神と月読尊が祀られていた

火山礫だろうか、剣呑な景色だ
16:20 継子岳に戻り下山開始
高天原の荒涼とした風景に心を奪われながら、道は徐々に登って継子だけ山頂に着く。
特に急な登りもなく、やはり漠然としたとりとめのないピークである。

初めは霧で、徐々に晴れたり曇ったりとめまぐるしい天候だったが次第に晴れてきていた。

15分ほども居ただろうか。
静かな山頂に座り、色々な思いをめぐらせているうちに、雲が晴れてきた。

もう少し晴れてくれれば、御嶽のすべてが見えるのでは?
との期待に応えてくれたのか、一瞬すべての雲が去り、継子岳から剣ヶ峰までの、山頂部がすべて現れた。
摩利支天山も、旭館や頂上山荘も見える。



それはほんの5分間もない程度だったが、この光景を眺めることができたのは私一人だ。
なんとなく、御嶽山が私に微笑んでくれたような感じがした。

それだけでも、素晴らしい登山だったと思える。
継子岳の山頂から。
見事に剣ヶ峰までの折り重なる稜線が見える

18:50 チャオ御岳スノーリゾート駐車場に到着


継子岳山頂のコマクサ
案の定、下りはきつかった。

頂上部で遊びすぎてしまい、体力が落ちていたこともあり、ストックを使ってもうんざりするような急な下りだった。
特に岩や木の根を踏み越えて降りなければならないのがきつい。 余裕があれば日和田口の方に降りて見ようかとも思っていたが、諦めてスキー場に向かう。
やっとの思いでスキー場についてもロープウェーはとっくに終了している。
最初からゲレンデを歩いて降りるつもりだったが、意外につらく、距離も長く感じた。

疲れ果てて車に着いた時は、薄暗くなっていた。
無事なにごともなく終わったことに安堵するばかりだった。