森のめぐみ 川のめぐみ -50年前の豊かな 自然への思いを馳せて- NPO 秩父の環境を考える会 荒川自然再生プロジェクトチーム 豊かな荒川の恵みを求めて 1950年(S25)頃は、半農半漁の生活で生計を立てていた人は多かったようである。身近な川は動物性たんぱく質の供給源として人々の生活に無くてはならない存在であった。 1960年(S35)の所得倍増計画に端を発した高度経済成長への経済発展は、近づく東京オリンピック開催に向けた新幹線の建設や高速道路の建設、更には都心の開発、京浜・京葉工業地帯の工場建設等で大量の建設資材を調達する必要が生じ、近隣の河川から砂利の採取供給が行われることとなった。 荒川は大量の川砂利採取に加え、更には都心と県南の水瓶としてダムが次々と建設されたために、新たな砂利の供給がストップ、河床の低下と岩盤化が目立つようになった。一時は三峰口付近の河原では、ダムの取水によって瀬枯れ現象も発生、魚の棲めない川となったこともある。その影響か、現在でも魚影は少ない。 近年、環境保全に目を向けた活動を行なっている保護団体や市民から、1955年頃の「豊かな水と恵み」を享受した時代に比べ、「どこかおかしいぞ」「何かがおかしいぞ」と疑問を抱く声が大きくなりつつある。 ※秩父に住む人達の想い 水を蓄え川に供給する役目を担う森を歩いて気付くことは、どこに行っても手入れもされず地肌むき出しとなった放置林である。 川に下りてみれば、あちらこちらの河床の岩盤化が目に付き、魚影を確認することも少ない。いったい魚達はどこに行ってしまったのだろうか。 人は水なしでは生きていけない。荒川の流域住民にとっては母なる川なのである。遅くならない内に、豊かな荒川を取り戻すための行動を起こすために調査研究と行動を起こすことになった。 荒川の現状調査 1、河川の状態 1) 多くの地点で、河床の低下が確認される。 2) 多くの地点で、河床の岩盤露出化が確認される。 3) 昭和30年代に比べ、砂利の粒が小さくなっている(抱える程の大きな石は、ほとんどの河原にない)。 4) どの地点においても、ほとんど魚影を確認できない。
和銅大橋下流 佐久良橋橋脚 2、土地の古老からの聴き取り調査 荒川本流の状態
3、荒川の魚類 荒川に生息する魚類は多い。1963年に行われた埼玉県の荒川総合調査では24科77種類の魚類が確認されている。では現在の魚類と生息数についてはどうだろうか。主だった魚類を調べても、明らかに減少している。
4、荒川の水質およびアユの生息調査 浦山ダムの放流水がアユの生息環境に与える影響について顕著な要素は把握できなかった。しかし、地元の人から「以前は、アユが大滝の光岩の辺りまで上がって来たもんだが…。」という話を聞いた。「なんだかねえ。最近は、上って来ないよ…。」 地元の人が感じているように、荒川に微妙な変化が起きているのは確かなようだ。その原因を探ることは非常に難しいことであり、原因がわからないことから「ダムが出来てからだ。」という話に直結するようである。 滝沢ダムが完成すると、荒川に変化が起きるだろか。私たちは、微妙な変化を見つめていかなければならない。そのためにも、今後、いっそう調査内容や方法を検討して調査を継続していくことが肝要である。また、この類の保全再生の活動は試行錯誤の方法もやむを得ないことではないだろうか。 5、荒川の水質 二瀬ダム建設時の荒川調査報告書(1958年)と2004年に秩父漁業組合の委託を受け本会が行った水質調査との比較である。溶存酸素が減少している。一般的には流れの安定している河川では、水中に含まれる有機物が分解する際にDOを消費するので、水が汚れるほどDO値は低くなる。水温によっても大きく影響されるので確定的ではないが、水質悪化が懸念される。 (秩父橋付近のデータ比較。2004年のCOD値は荒川流域N/W調査時の値)
6、秩父地域の森林 荒川を潤す水源である秩父地域の森林の状態は下記のような状況にある。国の林業政策を反映して針葉樹林(造林)が拡大し広葉樹林が減少している実態が明らかである。針葉樹林は民有林が90%を占めているが、木材価格の低迷により、ほとんどの林が手入れの行き届かない放置林状況にあると考えられる。
森が水を供給する大きな役割を担っている点について興味を示すデータがある。 針葉樹林(造林)における手の加えられた森と未整備林との様相差
表土がむき出しの放置林 手入れの行き届いた県有林 (陽が入り下草が茂る) 7、荒川の風景今昔 昭和30年頃の豊かな流れと恵みをもたらした荒川の写真と、最近の写真で荒川と周辺の変化を推理願いたい。 7-1、下の写真2枚→佐久良橋の橋脚基礎部分の砂利の状態を比較確認願いたい。
1963年の荒川佐久良橋付近風景 2005年5月の佐久良橋付近風景 写真提供 清水武甲写真事務所 7-2、下の写真2枚→秩父橋の橋脚基礎部分の砂利の状態を比較確認願いたい。
1955年の秩父橋付近風景 2005年5月の秩父橋付近風景 写真提供 小菅 一市氏 8、ダムの堆砂礫による環境への影響 秩父地域には現在2つのダムが稼動し、さらに1つのダムが建設中である。昭和30年のダムが建設される以前と、現在の2つのダムが稼動している現状との差はダムによって本来なら山から流出した土砂が荒川に一定量を供給していた機能が失われた点にある。ダムに堆積した土砂(堆砂礫)の増加スピードは計画値を上回り、放置しておけば早い時期にダムの機能=貯水量が大幅に低下する事態も考えられ、今後深刻な問題としてクローズアップされつつある。 土砂の流入がストップしたダム下流域では、洪水によって下流に移動した砂礫の補充が行われないために、いたるところで河床の低下が確認される状況にあり、多くの場所で河床岩盤化も確認されている。 2004年のデータ:単位千㎥
河床低下については7項の写真にて推察願いたい。河床岩盤化は魚類や水生昆虫等の繁殖を阻害するとともに、河川の水質浄化機能の低下など、深刻な事態を引き起こしている。 |