里山の動物 タヌキ

アドバイザー 町田 和彦

 

  「証城寺のたぬき囃子」 や 「かちかち山」 などタヌキはキツネと並んで昔話や民間伝承に多く登場する身近な動物です。 決して希な動物ではなく、 ごく身近な里山の動物として親しまれてきました。

 タヌキとキツネはともにイヌ科の動物です。 キツネがスマートなのに比べて四肢が短く、 ずんどうな体つきをしていてどことなくユーモラスです。 ちょうど柴犬をふっくらさせたような大きさです。

 冬毛はふさふさしていて、 とても暖かそうに見えますが、 夏毛は短く、 これでもタヌキ?といいたくなるようなみすぼらしさになります。

 冬の終わりから春の初めにかけて4〜5頭の子どもを産みます。 生まれたては真っ黒い毛でおおわれてイヌの子どもにそっくりです。 秋には親と同じ大きさに育ちます。

 雑食性なので植物質、 動物質何でも食べます。 昆虫やカエルなど季節によって食べ物を変えているという報告があります。 果実も大好物で、 カキなどは地面に落ちたものだけでなく、 上手に木に登って食べることもできます。 人家の残飯も重要な食料源です。 都心のホテルにタヌキが出てきて夜な夜な立派な食事をいただいているのがニュースになったりしています。

 さて、 日本の野生動物の多くが数を減らし、 絶滅の危機に瀕している種も多いといわれます。 カモシカも一時は深刻な状態でした。 しかし、 様々な調査結果から、 現在は少しずつ増えてきているといわれています。 タヌキはどうでしょうか。 「タヌキは増えているよ」 とよくいわれます。 残念ながら増えているのか減っているのかを判断する基礎データがほとんどありません。 野生動物の増減を議論することは難しい問題です。 対象とする種の生活史をきちんととらえることがまず必要だからです。 日本の野生動物でどれだけこの種の研究が進んでいるでしょうか。

 私は剥製屋さんに持ち込まれたタヌキを使って寿命を調べたことがあります。 近年、 哺乳類の多くの種で、 歯に年輪のできることが知られてきました。 歯の年輪によって年令を知ることができるのです。 歯を薄く研磨し、 染色して顕微鏡で見ると年輪がきれいに見えます。               

 研究の結果、 剥製屋に持ち込まれる個体の80%がその年生まれであることがわかりました。 やっと自立できたものの冬越しがたいへんで、 餌にひかれてわなにかかることがあります。 一番の長生きは7歳でしたが、 わなにかかる個体のほとんどが3歳以下であることがわかりました。 寿命からすぐに、 個体数の増減問題には結びつきませんが、 このような基礎データの積み重ねで漠然とした増減論争を科学的なものにしていけると思います。  タヌキにしても開発の影響のためか姿を見なくなった時期がありました。 だから都心のホテルに出るタヌキが売り物にもなるのです。 もともとそこにいたはずのタヌキがいったん姿を消し、 また戻ってきたともいわれています。 環境が良くなったのか、 それともタヌキがしたたかに適応したのでしょうか。

 都市部でも交通事故にあったタヌキの死体が時折見られます。 したたかに適応したかに見えるタヌキも、 目も眩むスピードで走る車は避けようもないようです。 今、 タヌキやイタチなど、 交通事故にあった野性動物を記録することが市民の間で広く行われています。 貴重な自然史資料となっていますが、 ヒトとの共生をいかに図るかというところまで考えを進めていけたらよいと思います。

 

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