秩父のムササビの実態

アドバイザリィスタッフ

斉 藤   貴

 

 ムササビはネコ位の大きさの夜行性動物です。 巣は主に杉などの大木に作ります。 餌は木の葉や木の実、 花やつぼみなどの植物で、 必ず樹上で食べ、 地面に落ちた餌は決して食べない完全な樹上生活者なのです。

 ムササビの特徴である滑空は樹上生活への適応の結果です。 滑空とは鳥やコウモリのように翼を動かして飛ぶのではなく、 手足の間と足と尾の間の皮膚が広がって出来た飛膜を、 前後の足をいっぱいに延ばして広げてグライダーのように飛びます。

 ムササビは巣と餌を森林に依存しているので森林が伐採されてしまうと生息出来ません。 滑空して移動出来る距離に森林が残っていなければ逃れることすら出来ないのです。 また伐採後に森林が回復しても、 ムササビが生息している森林から、 滑空して移動出来なければそこには再び生息することは出来ません。

 この様に森林と密接な関係にあるムササビが、 秩父地方にはどのくらい生息しているのでしょうか。 私はムササビの生息の有無を調べることで、 秩父地方の自然環境がわかるのではないかと思い、 平成3〜4年に秩父農工科学部生徒の新井君と調査を行いました。

 生息の確認は糞の有無で行いました。 ムササビの糞はダイズ位の大きさで丸く、 色は黒色か茶褐色をしており、 薬の正露丸の様な感じです。 糞を割ると中は細かくなった繊維質で占められており、 ノウサギの糞に似ています。 これを樹上から1回に20〜30粒をパラパラと落としますが、 高い所から落としても形はほとんど崩れません。 特に木の根元は雨の直撃をうけることが少ないので、 形をとどめていることが多く、 糞を発見しやすい場所なのです。 それでも糞は雨で壊れたり、 動物に分解されてあまり古い物は存在しないので、 最も簡単で確実な生息確認方法です。

 糞の有無によって生息が確認出来た地点は、 秩父市34・大滝村28・両神村21・小鹿野町39・荒川村27・皆野町19・長瀞町11・吉田町13・横瀬町8・東秩父村17地点の合計217地点でした。 生息地点の多さから見て秩父地方は現在は比較的に良い自然環境を保っていることがわかりました。

 生息地で一番多かったのは丘陵の近くにある神社の森、 いわゆる鎮守の森でした。 私達は鎮守の森が昔から、 地域の人々によって大切に保存されてきたことを改めて確認することが出来ました。 しかし、 鎮守の森であっても平坦地に孤立してしまった場合にはもはやムササビは生息していませんでした。

 秩父地方では過去に詳しい生息調査が行われいないので、 私達の調査と比較して、 最近どの場所に生息しなくなったということは言えません。 しかし、 私達の調査で杉の木や神社の社殿に巣穴の入り口があるのに、 いくら付近を探しても糞が見つからない場所が何地点もありました。 最近は秩父でもゴルフ場やダムの建設による森林の伐採などでムササビの生息を脅かす状況は増える傾向にあります。

 豊かな森林はムササビの生息に必要なだけではありません。 私達人間にとっても快適な住環境や心の豊かさのために必要欠くべからざるものなのです。 私はこれからもムササビの生息調査を継続して、 秩父地方の自然環境を見守って行きたいと思っています。 あなたもご自宅の近所にムササビが生息しているかどうか、 調べて見ませんか。

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