夏の夜空の風物詩

アブラコウモリ

アドバイザリィスタッフ

町 田 和 彦

 夏の夕方、 空をヒラヒラと飛ぶコウモリを見た人も多いと思います。 このコウモリがアブラコウモリです。 人家にすむので、 イエコウモリともいわれます。 体の大きさは、 人の親指大で約5、 体重6〜7g、 つばさをひろげると20〜23位です。 よくコウモリの赤ちゃんが飛び込んできたという話を聞きますが、 おとなのアブラコウモリをその大きさから子どもと間違えているのがほとんどです。

 日本にはアブラコウモリより体が小さく、 より黒っぽく、 原始的なモリアブラコウモリが生息しています。 アブラコウモリは人家にすんでいますが、 よく似たモリアブラコウモリは原生林にしかすみません。 秩父でも発見例が知られています。 このすみかの違いがどうして生じたのか、 興味のあるところです。

 アブラコウモリは3月末に冬眠からさめ、 11月中旬に冬眠にはいるまでの間、 日没20〜30分後にねぐらから飛び出して活動します。 餌となるカやガ、 ハエなどの小さな昆虫を一晩に体重の半分近くも食べるといわれています。 昼間のツバメに代わる益獣ですが、 夜活動するという生態からどうも誤解が多いようです。 冬眠あけの春先は夕方冷え込みが早いためか、 昼間飛ぶ姿もときどき見られます。

 6月下旬、 2〜3頭の子を産みます。 ほとんどのコウモリが1頭しか産まないのに対し、 珍しく多産です。 しかし、 寿命が3〜5年、 そのほとんどが1歳の冬を越せない現実を見ると、 種を守る手段なのかも知れません。  私の勤める県立熊谷女子高校には、 鉄筋の校舎のつなぎめなどに、 100頭位すんでいます。 最も多いのが、 50頭を越えるグループです。 ほとんどメスとこどもで、 繁殖集団のようです。 しかし、 このグループはいつも同じ所にいるのではなく、 校舎内のあちこちをかなり頻繁に移動しています。 この移動や寿命を調べるため、 腕輪をつけて調査をしています。 昨年の個体が同じ所で確認されるなど、 今後の調査が楽しみです。

 8月の一夜、 活動の様子を調査してみました。 7時頃飛び出し、 活発に餌を食べます。 すぐに暗くなって私たちには見えなくなりますが、 グランドの照明の周りを飛ぶ姿で活動していることがわかります。 ところが、 8時頃には校舎の外壁に単独で、 あるいは7〜8頭で固まって休んでいるのが見られました。 1時間ほど餌を食べるとひと休みをしてしまうようです。 午前2時くらいまで、 壁に止まっているのも見られました。 一年を通した調査が必要です。

 9〜10月にはいると奇妙な行動が見られます。 2頭が追いかけっこのようにして飛ぶのです。 交尾行動のようですが、 まだはっきりしていません。 冬眠前に交尾することは冬眠中のメス体内の精子の存在で確認できています。 受精は冬眠明けにおこります。

 冬眠は校舎のつなぎめの中で行われますが、 外から見えるところでも平気です。 NHKの取材に協力して、 冬眠の様子を撮影しましたが、 鉄骨の隙間でほこりまみれになっているものもいました。 よくこんな所でと思いましたが、 都会の中で生きるアブラコウモリのしたたかさなのでしょうか。

 都市の温暖化でアブラコウモリは少しずつ増えているようです。 ビルの中にもしっかりとねぐらを見つけるコウモリ、 ずっと一緒にいられる環境であって欲しいものです。

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