光学定数とは        いさお光工房

光学定数について

半導体や金属などの導体を含む一般の物質に対するマックスウェルの方程式から導出される波動方程式は、次式で与えられます。単位系は、MKSA有理化単位系をもちいます。電場Eについては、

 ∇E=εμ(∂/∂t)2 E+σμ(∂/∂t)E (1)

 E=εμ(∂/∂t)2 E       (2)

以下、簡単のためz軸方向へ進む平面波について考えるものとします。すると(1)、(2)式は、次のようになります。

 (∂/∂z)2 E=εμ(∂/∂t)E+σμ(∂/∂t) (3)

 (∂/∂z)2 E=εμ(∂/∂t)E       (4)

ここに、ε:誘電率、μ:透磁率、σ:電気伝導度、ε:複素誘電率。さらに、

ε=εεrε=μμrε=εεr             (5)

ここに、εr:比誘電率、μr:比透磁率、εr:比複素誘電率。
εなど定数類の太字は、複素数を表すものとします。

マックスウェルの方程式から導出される電磁波のうち、z方向へ進む平面波は、次のように書くことができます。

E(z,t)=Eexp (ωt ‐(2π/λ))   (6)

E(z,t)= Eexp iω(t z/c)     (7)

E(z,t)= Eexp iω(/c)( ‐z)  (8)

ここに、v:複素位相速度。

v≡c/n                   (9)

z方向へ進む平面波に対して、微分演算子を作用させることは、下記の係数を掛けることと同等です。

/∂t=iω                  (10)・・・(6)、(7)に対応

/∂z=‐i(2π/λ)n            (11)・・・(6)に対応

/∂z=‐iω/c              (12)・・・(7)に対応

/∂t=iω(/c)            (13)・・・(8)に対応

/∂z=‐iω(/c)            (14)・・・(8)に対応

(4)式に(13)、(14)を用いると

(‐iω(/c))εμ(iω(/c)2 これを整理して、

=1/(με1/2               (15)

v=c/(με)                (16)

真空中では、

=c=1/(με1/2            (17)

(3)式に(10)、(12)を用いると

(‐iω(/c))=εμ(iω)+σμ(iω)

(4)式に(10)、(12)を用いると

(‐iω(/c))εμ(iω)2 これらを整理して、

=cμε                  (18)

ε=ε−iσ/ω                (19)

εε−iσ/(εω)            (20)

(5)、(16)、(20)式を用いて(18)式を書き換えると

=cμε=μμrε0εr=μrεr=μr(ε−iσ/(εω)) (21)

強磁性体を除き、通常の光学材料ではμr=1と置いてよいので、(21)式は、

εr =(n−ik)                         (22)

n=εr1/2                  (23)

(21)より

n=(μrεr1/2=n−ik            (24)

εr=εr−iεr2                           (25)

(光学定数の定義)

光学定数の一般的定義は、n=n−ik であります。

z軸方向へ進む平面波として(6)式にこのn=n−ikを代入すると、(6)式は、

E(z,t)=Eexp (ωt ‐(2π/λ)(n−ik)z) 

E(z,t)=Eexp(−(2π/λ)kz)exp (ωt ‐(2π/λ)nz)   (26)

の形になります。電磁波のエネルギー流は、電場と磁場の振幅の自乗に比例するので、

電磁波のエネルギー流は、進行方向zに対してexp(−(4π/λ)kz)のように減衰します。

これから吸収係数αが、α=4πk/λ、で定義されます。

透明媒質中では、光の吸収はゼロ、すなわち(24)式でk=0 または、(25)式で

εr=0 したがって、α=0で、且つ、

n=n

εr=εr

であって、光学定数は、実数で、屈折率と同じになります。

誘電率も実数です。半導体や金属などの導体を含む一般の物質では、吸収媒質となり、光学定数は、複素数屈折率として定義されます。誘電率も複素数誘電率となります。

光学定数や誘電率は、マックスウェルの波動方程式を構成する重要な物理量であり、光速、光波や電磁波の位相や、振幅の時間的、空間的変化を調べるのに不可欠なものです。

誘電率と光学定数は一方から他方を計算することができます。

(誘電率を光学定数によって表した式)

強磁性体を除き、通常の光学材料を考えるものとします。(22)式から、

εr =(n−ik) =n−k−i2nk (27)

εr =εr1−iεr2              (28)

から、

εr1=n−k                (29)

εr2=2nk                  (30)

(光学定数を誘電率で表した式)

(29)、(30)式の左辺と右辺を入れ替えた式から出発します。

−k= εr1               (31)

2nk= εr2                 (32)

(31),(32)式の両辺を自乗して、

(n−k= εr1            (33)

(2nk)= εr2             (34)

(33)と(34)の各辺を加え、両辺の平方根をとり、(31)も一緒に並べると

+k= (εr1+εr21/2     (35)

−k= εr1              (36)

これより直ちに、

n=(1/2)1/2( εr1+(εr1+εr21/21/2   (37)

k=(1/2)1/2(−εr1+(εr1+εr21/21/2   (38)

(光学定数の定義の仕方について)

ここまでは、光学定数を=n−ikの形で定義しましたが、=n+ikのように定義する例も少なくありません。光学定数の定義の仕方については、引用資料 にわかり易く記されています。ここでは、光学定数を=n−ikで定義し、セットで複素誘電率εを

ε=ε−iε で定義します。この定義に伴って、z軸方向へ進む平面波は、(6)、(7)、(8)のように選ぶ必要があります。光学定数の選び方が異なると、波の位相の進み方、

光学干渉の式(振幅反射率の表式など)、円偏光の表式、誘電率に対する諸分散式などが異なってきますので、注意が必要です。